テレコムシステム技術賞

表彰者コメント

※受賞者の所属は当論文賞受賞時のものです。

坂東 幸浩 氏(NTTアドバンステクノロジ(株) 担当課長)

テレコムシステム技術賞 入賞「Generalized Theoretical Modeling of Inter-Frame Prediction Error for High Frame-Rate Video Signal Considering Integral Phenomenon」

■受賞者コメント

坂東 幸浩

このたびは「第30回電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞」という栄えある賞を賜り、大変光栄に存じます。電気通信普及財団の皆様、審査頂いた先生方に、心より御礼申し上げます。

今回の受賞論文は、映像のフレームレートと情報量の関係を考察したものです。研究の背景には、高臨場感映像通信を実現するための映像の高画質化に関する検討がありました。この高画質化の重要な要素として、フレームレートに着目したのが、研究のスタートでした。フレームレートは単位時間あたりのフレーム数です。このため、フレームレートの増加は、画質の向上をもたらしますが、一方で、映像の情報量の増加を招きます。ですが、フレームレートと映像の情報量の関係は、経験的・定性的な理解にとどまっていました。その理解を難しくしていたのは、映像符号化に用いられる動き補償と呼ばれる時間方向の予測処理でした。

そこで、本論文では、動き補償予測処理に対して、撮像系のパラメータであるシャッタ開口とフレームレートの影響を解析的なアプローチでモデル化しました。その結果、フレームレートが映像の情報量に及ぼす影響を高い精度で把握可能となりました。提案したモデルは、実測値に対する推定精度を従来モデルに比べ最大1000倍向上させることができました。今後、映像が高フレームレート化していく中で、提案したモデルの与える指針が、映像符号化システムの設計に対して何らかの形で寄与できれば、望外の喜びです。

今回の受賞を励みに、電気通信技術の発展に貢献すべく、微力ではございますが、一層の努力を尽くして参りたいと存じます。最後になりますが、貴財団の益々のご発展をご祈念申し上げます。

小山 翔一 氏(東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 助教)

テレコムシステム技術賞 入賞「Reproducing Virtual Sound Sources in Front of a Loudspeaker Array Using Inverse Wave Propagator」

■受賞者コメント

小山 翔一

このたびは「第30回電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞」という栄えある賞を賜り、大変光栄に存じます。電気通信普及財団の皆様と審査いただいた先生方に、この場をお借りして御礼申し上げます。

今回、賞を頂きました論文では、より臨場感の高い音響再生システムの実現を目指した、音場再現の技術を扱っています。マイクロフォンアレイの信号を用いて収録した音場を再構成する場合、従来技術では、受聴者から見てスピーカアレイの後方に音源があるような音場を再構成することは可能でしたが、スピーカアレイの前方、すなわち、アレイと受聴者の間に音源を形成することは困難でした。本論文の提案手法では、マイクロフォンアレイの収音信号から、波面の逆伝播演算を用いて任意の距離だけシフトした位置の音場を再構成することで、これを実現しています。このような技術は、スクリーン前面に映像を結像するような映像提示システムとも親和性が高く、広くバーチャルリアリティの分野で応用が期待できると考えております。

今回の受賞を励みとし、今後の研究活動により一層精進していく所存です。最後になりますが、貴財団の益々のご発展を祈念いたします。

洗井 淳 氏(日本放送協会 放送技術研究所 立体映像研究部 上級研究員)

テレコムシステム技術賞 入賞 「Integral three-dimensional image capture equipment with closely positioned lens array and image sensor」

■受賞者コメント

洗井 淳

このたびは「第30回電気通信普及財団賞テレコム システム技術賞」という栄えある賞を賜りまして、大変光栄に存じます。電気通信普及財団の皆様、審査頂いた先生方に厚く御礼申し上げます。

今回の受賞対象の論文は、被写体の立体情報を実時間で取得可能な撮像装置に関する内容です。立体情報の取得原理は、立体写真の技術であるインテグラル方式に基づいています。従来の構成では、撮像装置に大判の集光レンズを用いる必要があったため、撮像装置全体の大きさや、光学的なひずみが課題となっていました。そこで、本論文では、撮像素子とその素子と同じサイズのレンズアレーを一体化し、集光レンズを不用とした撮像装置を提案しています。さらに、この撮像装置を試作し、立体情報の取得および立体像の表示実験を行い、有効性を確認いたしました。

二次元だけでなく、奥行きを含む三次元の情報を扱う立体映像技術は、新しい映像表現、ユーザインターフェースや計測手法に発展していく可能性を持っています。そのため、今後、放送や情報通信などの幅広い範囲で需要が高まることが考えられます。今回の受賞を励みに、この研究を発展させ、新しい産業へ繋げていけるよう開発を続けたいと考えております。

最後になりましたが、電気通信普及財団の益々のご発展とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。

若土 弘樹 氏(名古屋工業大学 テニュアトラック助教)

テレコムシステム技術賞 入賞「Waveform-Dependent Absorbing Metasurfaces」

■受賞者コメント

若土 弘樹

この度は大変名誉ある賞に私たちの論文を選定頂き、大変光栄に存じます。電気通信普及財団の皆様ならびに審査委員の先生方に深く御礼を申し上げます。

今回の論文のポイントと致しましては、世界で初めて同一周波数でも波形、すなわちパルス幅(励振時間)という新たな概念に基づいて電磁材料の応答を操作することに成功したことが挙げられます。これまでの電磁研究では一般的に「周波数が固定された場合、各材料の振舞いは一定」と考えられてきました。これに対して、本論文ではメタサーフェスと呼ばれる二次元上に構築された金属の周期構造に複数の回路素子を統合することで、上記の「波形に依存する」電磁特性を開発しました。具体的には、入射電波(表面波)によって周期構造に誘起された電荷をダイオードで整流することで、周波数成分を主に直流成分へと変換しました。そのエネルギーを一時的にキャパシタ内に蓄え、その後並列に接続された抵抗で消散することで、同一周波数でも短いパルス波を吸収することに成功しました。一方、長いパルス波はキャパシタを完全に充電するため、このような吸収メカニズムを得ることができず、透過することに成功しました。本研究成果は基礎電磁特性に大きな影響を与え、今後電磁界研究分野での幅広い応用により、様々な新規マイクロ波デバイスおよびアプリケーションの開発に貢献することが期待されます。例えば、無線通信分野では同一周波数でも任意のパルス幅信号のみを用いた通信の実現などが考えられます。

最後になりましたが、電気通信普及財団の益々のご発展とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。

小林 博樹 氏(東京大学 空間情報科学研究センター 助教)

テレコムシステム技術賞 奨励賞「Tele echo tube: beyond cultural and imaginable boundaries」

■受賞者コメント

小林 博樹

この度は栄えある賞を賜りまして、身に余る光栄でございます。電気通信財団事務局の皆様と審査いただいた先生方に心より御礼申し上げます。

現在、人間の生活圏の拡大や自然開発の活発化に伴い、絶滅危惧種の増加や有害鳥獣類による農作物や交通システムの被害など人間社会の利益と生態系の保全との衝突が深刻な問題となっています。人間が生態系に物理的に接触すれば生態系の破壊は不可避であり、生態系保全には物理的な分断がもっとも効果的な手法です。しかしながら、自然遺産や天然記念物は観光産業や農林業と密接に結びついおり、完全な分断もまた不可能です。本研究では、この”人間と自然との関わりの矛盾”という課題の解決支援として、計算機を介した人と生態系の関わりを提案しました。具体的には、人間と生態系を「物理的に分断」し、その「物理的分断」された空間内で計算機が生態系に接触し、実空間の自然環境と触れ合えるメタレベルの概念として「情報的接触」を提案しています。これにより「生態可逆的維持」を実現するものです。

本論文ではリモートセンサを統合し、遠隔地自然環境とユーザーの間にリアルタイムな一体感を創出するインタフェースを提案しました。実際にプロトタイプを研究開発し,インフラの存在しない中山森林間(沖縄県西表島や東京大学演習林内)に設置しました。ここは野生動物が多く生息し,人の立ち入ることが困難な場所です。そして、こうした環境に生息する山彦とインタラクティブな情報のやり取りを行うインタラクションシステムを実現しました。これにより、ネットワークを利用し遠隔地からの自然環境の情報を実時間で取り入れることで、癒されるシステムを完成させました。これらは、科学技術の進歩により失われた“自然との一体感“を情報技術により取り戻す、これまでにないデザイン研究です。

今回の受賞を励みに、この研究を発展させ、新しい社会創造へ繋げていけるよう努力を続けたいと思っています。最後になりますが、貴財団の益々のご発展を祈念いたします。

豊田 健太郎 氏(慶應義塾大学大学院 理工学研究科 後期博士課程2年 助教 (有期・研究奨励))

テレコムシステム技術賞 奨励賞「Unsupervised Clustering-based SPITters Detection Scheme」

■受賞者コメント

豊田 健太郎

受賞論文は、IP電話の普及に伴い、広告や詐欺を目的とした迷惑電話を行う発信者の判別手法を提案しています。これまでユーザの通話履歴から発信頻度等の特徴量を算出し、学習した閾値とそれらを比較することで判別する方式が検討されていましたが、これらの手法は特徴量毎に閾値を学習する必要がありました。そこで本論文では、算出した全特徴量を基に各ユーザを2つのクラスに分類した上でどちらが迷惑電話発信者のクラスであるかを判別することで学習を必要としない方式を提案しています。これは正規ユーザ間の通話の特徴は、正規ユーザと迷惑電話発信者とのそれよりも類似度が高いという仮定に基づいており、各クラス内である特徴量の平均を計算し、それらを比較することで迷惑電話発信者のクラスを特定します。

これからも安全安心な社会の実現の一助となるように研究を進めていく所存であります.最後になりましたが、電気通信普及財団の益々のご発展とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。