第32回(2016年度)

※受賞者の所属は当論文賞受賞時のものです。

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入賞

「デジタルウィズダムの時代へ 若者とデジタルメディアのエンゲージメント」

(書籍発刊:新曜社,2016年9月)

高橋 利枝  早稲田大学 文学学術院 教授

審査員コメント

デジタル時代において仮想空間上で行われる情報のやり取りが、現実社会における若者の内面、対人コミュニケーションにどのような影響を及ぼすか、日米英3カ国のデジタル・ネイティブと呼ばれる若者たちへの豊富なインタビュー調査や参与観察のデータからその可能性とリスクを明らかにした労作である。加えて、AI、ロボットなどの第4次産業革命が引き起こす社会変容に向けたリテラシー教育の必要性も指摘されている。そのような新たな研究視点も注目される。

奨励賞

「表現の自由とアーキテクチャ 情報社会における自由と規制の再構成」

(書籍発刊:勁草書房,2016年6月)

成原 慧  東京大学 大学院情報学環 客員研究員

審査員コメント

情報社会における法とアーキテクチャの再定位という構想は、先駆性のある研究視角として高く評価される。多くの書物、アメリカ判例を読みこなして網羅的に引用しており、表現の自由のみならず、性表現規制・著作権保護・安全保障・忘れられる権利といった切り口からアーキテクチャについて論じているのも評価できる。結論としてはアーキテクチャの再定位、構成にまでは至っていないため、今後の精進を期待したい。

「ツイッターの心理学 情報環境と利用者行動」

(書籍発刊:誠信書房,2016年7月)

北村  智  東京経済大学 コミュニケーション学部 准教授
佐々木 裕一 東京経済大学 コミュニケーション学部 准教授
河井 大介  東京大学 大学院情報学環 助教 

審査員コメント

SNSの代表であるTwitterに関して、そのユーザに対する利用実態・意識等のアンケート調査の結果とAPIを利用してログデータを収集した結果から、ネットワーク形成と対人交流形成の差異、他者への期待等を明らかにしている点が評価できる。また、当財団の研究助成による研究成果が取り込まれている点も評価できる。今後の発展として、発言の構造分析とインフルエンサーとの関連性の分析、および共分散構造分析等によるパターン分析、さらには同じようなメディアであるFacebook、LINEとの比較分析を期待したい。

「通信事業者選択の経済分析 スイッチングコストからのアプローチ」

(書籍発刊:勁草書房,2016年6月)

中村 彰宏  横浜市立大学 大学院国際マネジメント研究科 教授

審査員コメント

携帯電話市場では消費者が別の供給者に乗り換えるスイッチィングがみられる。その際に生じる経済的・心理的負担を、アンケートデータを用いた実証分析で明らかにした興味深い研究である。分析は携帯電話市場にとどまらず、SNS、ブロードバンド市場等電気通信市場全般にまで分析対象を拡大しており、現実に即した幅広い事象をとりあげている。本書の主要な部分の分析対象期間が古い点では、更なる研究の深化が望まれる。