第31回(2015年度)

※受賞者の所属は当論文賞受賞時のものです。

第31回テレコム社会科学部門の総評はこちら

受賞者からのコメントはこちら

入賞

「プライバシー権の復権ー自由と尊厳の衝突」

(書籍発刊:中央大学出版部, 2015年7月)

宮下 紘  中央大学 総合政策学部 准教授

審査員コメント

プライバシー権という古くて新しい概念に関わる欧米の議論を鋭く分析しているのは、大いに評価できる。今後はIOT社会、ビックデータの時代において個人の保護をどう図るかについて、プライバシー概念に拘ることなく、情報セキュリティと法制度の関わりなど、より広角的視点から研究を続けて頂きたい。

「インターネットは自殺を防げるか ーウェブコミュニティの臨床心理学とその実践」

(書籍発刊:東京大学出版会, 2013年6月)

末木 新  和光大学 現代人間学部 講師

審査員コメント

近年の統計を見ると、わが国の交通事故死者数と他殺による死亡者数は減少傾向にあるのに対して、自殺者数は2万5千人(交通事故死者数の5~6倍、他殺による死亡者数の約70倍)近くにのぼり、人数および10万人当たりの自殺率のいずれも国際的に高い水準にある。その意味で、自殺は現代の日本社会の病理である。このような現実を踏まえて、臨床心理士である著者はインターネット利用の一般化がわが国における自殺の問題とその危機に陥った人達への支援にどのような影響を与えるのかという点に真正面から取り組み、データに基づいて丁寧に論証している。その結果として、自殺関連サイトが自殺を予防するという機能をもち得るということを実証的に明らかにした点は、特に評価できる。また、オンライン相互援助グループにおける「ボランティアよる監視」など、実践的な提言も傾聴に値する。自殺の問題のみならず、著者のいう情報疫学研究の今後一層の発展を期待したい。

奨励賞

「『ローカルテレビの再構築』地域情報発信力強化の視点から」

(書籍発刊:日本評論社, 2015年1月)

脇浜 紀子  読売テレビ放送株式会社 編成局コンテンツビジネスセンター コンテンツ事業部 副部長

審査員コメント

本書は、デジタルネットワーク時代を迎え、メディア環境が大きな変化をしている今日において、地上波民放局が地域メディアとして果たす役割を地域情報発信力強化の視点から検討している。筆者は、報道現場から得た数多くの取材経験を踏まえ、ローカル局の抱える構造的問題を明らかにするとともに、経済学的視点から地域メディアの利用動向分析、基幹ローカル局の経営分析を行い、それらの分析を踏まえてローカルテレビ再構築の方向性を論じている。 本書は、豊富な実務経験を有する筆者の学術的研究であり、説得力ある論理展開は大いに評価できる。