第33回(2017年度)

※受賞者の所属は当論文賞受賞時のものです。

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奨励賞  

「ネット炎上の研究」
 

(書籍発刊:勁草書房,2016年4月)

田中 辰雄   慶應義塾大学経済学部 准教授
山口 真一   国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 講師

審査員コメント

本書で取り上げた「ネット炎上」はインターネット社会で生まれ、時代の転換点において避けて通ることのできない歴史的現象である。本書は、一般に話題となっているこの新たな社会的問題を取り上げ、提示されるひとつひとつのファクトをデータ解析することにより論理的に説明されている。この点は高く評価される。加えてネット炎上は「力の濫用」であり、濫用を乗り越えるための具体的な方策も加えた力作である。

「情報倫理−技術・プライバシー・著作権」
 

(書籍発刊:みすず書房,2017年4月)

大谷 卓史   吉備国際大学アニメーション文化学部 准教授

審査員コメント

本書は、情報社会が生み出した諸問題、具体的にはサブタイトルにあるような技術、プライバシー、著作権などに関わる多くの問題について、豊富な事例に基づいて論点整理を行い、倫理的な側面にまで切り込んで議論している労作である。その内容は多岐にわたり大変興味深いと同時に、解説も明瞭である。今後は、著者の言う単なる「解説付実況中継」だけではなく、その体系化と同時に、情報倫理の視点からのより深い考察が行われることを期待したい。
 

「EUとドイツの情報通信法制—技術発展に即応した規制と制度の展開」
 

(書籍発刊:勁草書房,2017年1月)

寺田 麻佑   国際基督教大学教養学部 准教授

審査員コメント

ドイツおよびEUの情報通信法制・政策の枠組みを詳細に分析し、紹介している点はこれまで類書がない分野であり、高く評価できる。ただし膨大な注は、なお未消化の部分を残していることを示唆している。共同規制など、後半での日本の情報通信法制へのインプリケーションも十分に展開しきれていないため、今後の一層の研究が待たれる。
 

「現代情報社会におけるプライバシー・個人情報の保護」

(書籍発刊:日本評論社,2017年9月)

村上 康二郎  東京工科大学教養学環 准教授

審査員コメント

第一部は、情報プライバシー権についての日米の諸理論を、プロパティ・ライツ論を含め詳細に論じており、ドグマティックな展開をうまく解題している点で高く評価できる。第二部は、現代的諸課題をそれぞれ20〜30頁で紹介し、分析しており、やや皮相的である。例えば、匿名加工情報とプロパティ・ライツ論との関わりなどについて、より詳細に論じて欲しい。